HRデータの分析手法のメモ

書籍等で見つけたHR分析手法について整理していきます

Google発:従業員生涯価値(Employee Lifetime Value=略:ELTV)について

従業員生涯価値(Employee Lifetime Value)って??

本家のGoogleでのリンクが切れてしまっていたのですが、

Googleの採用チームが人事施策のビジネスへの貢献度を定量化するために行っている従業員の生涯価値(ELTV)について紹介します。

 

社員の成果を最大化させるために重要な考え方で、

社員が入社してから退職するまでの間にどれだけの成果を生み出すかをイメージに落とし込んだものです。

このイメージの網掛け部分が従業員生涯価値(Employee Lifetime Value)でここを最大化させることが求められます。

それぞれ各フェーズがあります。

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従業員生涯価値(ELTV)

 

■採用~教育期間終了

採用後は社員の成果はマイナスからのスタートです。

採用後すぐに成果を出せる社員は少なく、費用がかかります。

費用については、例えば、採用後教育費用・人件費・福利厚生費・社会保障費・採用コスト(媒体費用等)等の費用がかかるため、損益分岐点を超えることが求められます。

そのため、企業は新入社員研修(OFFJT)・OJTで成長を促進することが求められます。

(一般的には新人としての等級段階です)

■教育期間終了~成果の最大化

教育期間終了後はいわゆる独力での業務遂行ができる水準です。

ここから自身のノウハウを構築し、OJTを通じて成果を伸ばしていきます。

安定的な成果を出せるようになり、会社として利益を最大化する段階です。

(一般的には新人としての等級を脱し、担当を持つような段階です。)

■成果の最大化~退職の決断

成果が頭打ちになったあとは、安定的な業務遂行を求められます。

会社としてはモチベーション維持施策を通じ、長期的な勤続を促していきます。

■退職の決断~退職

退職が決まったあとは引き継ぎや有給消化等で急速に成果が低減し、最終的にゼロになります。場合によっては費用がかかるため一時的にマイナスにもなります。

 

あまり日本で論文を見つけられなかったのですが、

http://cdgakkai.ws.hosei.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2017/11/15-1-11.pdf

のように詳細に計算方法検討をしている論文もあります。

 

従業員生涯価値(Employee Lifetime Value)を見るときの観点

この式を見るときの観点は、

  1. 採用の効率化

  2. 早期戦力化

  3. 成果の最大化

  4. 長期的な勤続

とそれぞれあります。

①採用の効率化

採用の効率化については、

様々な観点がありますが、

  • 採用の母数を集めるか
  • 採用プロセスのコンバージョン率(応募→面接→採用の転換率)を上げるか

がポイントと思います。

一般的な求人広告媒体は応募数・面接数・採用数が見えるため、媒体への投下費用あたりの応募数・面接数・採用数を把握し、定量的に1人材の採用コストを可視化できます。

この採用コストを可視化することでどの媒体が最も効果的かの検討を行います。

 

下記のリンクのSHIFT社は採用費用(採用費+教育コスト)に対して、一人あたり売上総利益・営業利益を計算することで何ヶ月で採用費用を回収し戦力化するかをKPIにしています。

また、一人あたり売上総利益・営業利益と勤続年数(退職率を加味して計算)することで、生涯売上総利益や営業利益を試算し、収益性の高い採用方法の検討するKPI指標としての活用や、採用人数を増やす・採用を止める指標としても活用しています。

industry-co-creation.com

このSHIFT社の事例では、採用に関わるスピード感を如何に早くするかを心がけ、採用プロセスでの応募者の離脱を防ぐことを目指した結果、他社の採用スピードの1/7まで短縮をしたそうです。
(動画面接を録画し、社内のイントラで開示することで複数の目で素早く選考プロセスを回すということを行ったそうです)

 

また、最近はナビ系の採用媒体とは違う流れとして、リファラル採用や退職者ネットワーク(アルムナイ)の活用など、従来とは異なる採用方法も取り入れられています。

 

②早期戦力化

ここでは採用された社員に効果的な教育を行うことで、社員が費用から収益に変わるため、如何に短期間で成果を上げられるように促していくかが大事です。

OFFJTでは体系的な教育マニュアルやナレッジの整備、OJTでは1on1mtgの実施やOJTトレーナー制度等で教えていくことなどが考えられます。

OJTも従来の徒弟制度的なものでなく、教育コンテンツとしてよりわかりやすい動画などの教材(場合によってはVR教材)はますます充実しており、現場系のサービスや小売、建設設備業などは職人やメンバーの身体的な動作を映像に残し、eラーニングで見て実際に体を動かしながら覚えるのが主流に時代のトレンドになっており、下記のようなサービスもあります。

tanren.jp

オフィス系については、作業画面を録画しておき、録画したデータを共有サーバー・イントラに設置するなど実際の作業手順をいつでも見れるようにすることで、手順の標準化を図っています。

カッツモデルで言うところのヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルは習得に時間がかかりますが、わかりやすいテクニカルスキルはこのようにすぐに成果を出せるよう如何に標準化・手順化を行い、わかりやすい動画等でのマニュアルを残せるかが肝と言えます。

 

 

③成果の最大化

④長期的な勤続

 多くの企業が心血を注いでいるのはこの領域ではないでしょうか。

社員の成果を最大化させるため、適切な人件費を払い、モチベーションを管理することがまさにこの領域です。

 

この領域の人事施策は多岐に渡るのですが、

近年特に注目されているのはエンゲージメントかと思います。

人事用語としての「エンゲージメント(engagement)」は、従業員が企業に対して持つ帰属意識や貢献意欲のことです。

検索するとたくさん出てくるのですが、エンゲージメントが高い会社は社員の生産性が高く、勤続期間が長いと言われています。そして生産性・離職に関わる指標にポジティブに影響するため顧客への満足度にも繋がり、企業業績への好循環が生まれます。

 

このエンゲージメントの測定方法としては、

■eNPS(Employee Net Promoter Score):

自社への入社を、あなたは友人・知人に薦めますか?

というアンケートを社員に実施することで計測できます。

 

他にはギャラップ社の企業の業績を診断できると言われる下記の質問もあります。

【Q12(キュー・トゥエルブ)を測定するための12個の質問】

  1. 私は仕事の上で、自分が何を期待されているかがわかっている。
  2. 私は自分の仕事を正確に遂行するために必要な設備や資源を持っている。
  3. 私は仕事をする上で、自分の最も得意とすることを行う機会を毎日持っている。
  4. 最近一週間で、良い仕事をしていることを褒められたり、認められたりした。
  5. 上司または職場の誰かは、自分を一人の人間として気遣ってくれている。
  6. 仕事上で、自分の成長を励ましてくれる人がいる。
  7. 仕事上で、自分の意見が考慮されているように思える。
  8. 自分の会社の使命/目標は、自分の仕事を重要なものと感じさせてくれる。
  9. 自分の同僚は、質の高い仕事をすることに専念している。
  10. 仕事上で、誰か最高の友人と呼べる人がいる。
  11. この半年の間に、職場の誰かが自分の進歩について、自分に話してくれた。
  12. 私はこの一年の間に、仕事上で学び、成長する機会を持った。

www.amazon.co.jp

www.amazon.co.jp

 

こういったアンケートを定点観測的に実施し、その改善に会社や現場組織単位で取り組むことが効果的な施策になります。

 

こういったエンゲージメントといった言葉はバズワードで、流行り廃りがあるのですが、最近のトレンドはウェルビーイングに移りつつある気がします。

forbesjapan.com

 

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従業員の生涯価値の改善

上記のイメージのように各プロセスでの改善により成果を最大化していこうと考えるのが、従業員生涯価値になります。

同じような思想として入社から退職までの社員の期待やエンゲージメントの変化を追う、エンプロイ-・ジャーニーマップがあるのですが、人材のフェーズに応じて、必要な施策を打ち、従業員の体験価値を上げていくかが従業員生涯価値の重要な観点と言えます。