HRデータの分析手法のメモ

書籍等で見つけたHR分析手法について整理していきます

管理職の適正比率の算定方法について

仕事を通じて適切な管理職の比率について聞かれることがある。

 

職能型(メンバーシップ型)の人事制度を取っている会社に多いのだが、管理職として就くべきポスト(部・課といった組織に対応した役職)がないにも関わらず、課長代行・副部長など昇格をしたせいで組織が頭でっかちになり若手・中堅に仕事のしわ寄せがいってしまい、人件費もかさみ、管理職も実際はプレイヤーとそこまで変わらない仕事をしている現象がおきる。

 

以前、人事制度設計のご支援をした企業で正社員の半分が管理職という会社があった。
能力の伸長や年功的勤続の報奨として管理職ポストを与え続けた結果、ポスト管理ができていないというのがこの会社の昇格運用であり、制度設計の方針としては個別同意を取りながら非管理職等級に移行するという施策や管理職の子会社への出向、希望退職を実施した。


※職能・職務・役割型の違いは下記のクレイア・コンサルティングさんの説明がわかりやすい

 

 

最近の会社では役割型(もしくは職務型(ジョブ型))の会社が多く、ここまで極端に管理職が多い会社も珍しいのだが、本質的な問題として管理職の割合はどれぐらいが適切かという疑問が残る。

管理職の割合の算定にはいろいろな方法があり答えがないのだが、いくつか方法を紹介していきたい。


■外部との比較
外部の比較の際に参考になるのが厚生労働省の賃金構造基本統計調査である。

 

www.e-stat.go.jp


賃金の産業別・階層別比較に活用できるもっとも便利なビックデータだが、この中から『役職、所定内給与額階級別労働者数及び所定内給与額の分布特性値』によるベンチマークをみていく。

本データでは
階層別に

部長級、課長級、係長級、非役職

とデータが取れるのだが、この部長・課長を管理職としてその人数比率を業種別に見ることができる。

 

結果として、産業全体での比率は10.6%(部長:3.1%、課長7.5%)で最も管理職の多い業種で20.2%、最も少ない業種で運輸業・郵便業で4.9%となっている。

f:id:yuu19871127:20210330180854p:plain

令和元年賃金構造基本統計調査 

 

Dropbox - 計算用シート.xls

 

基本的に労働集約型の産業では少ないマネジメントで多くのメンバーを取りまとめるため、管理職比率が下がり、知識集約型では一人あたりの管理職がみられるメンバーの数が限定されるため管理職比率が上がる傾向がある。
もしくは先程説明した職能か役割かといったことも管理職比率に影響していると考えられる。

企業規模は影響するかと思っていたがあまり大きな影響はないようである。

外部比較はあくまで参考であるが、10%が標準で20%を超えるようであれば多いとざっくり覚えておこう。


■内部での算定

トップダウンでの算定)
算定方法は原則ルールとして組織のポスト数による。
ルフレッド・チャンドラーの言葉に『組織は戦略に従う』というものがあるが、『ポスト数は組織に従う』と考えるものである。

※アンゾフは『戦略は組織に従う』と逆の事を言っているが鶏卵の話に近いためここでは割愛

 

組織をどのように構築するかは大本の組織体制として、
・ 事業別
・ 機能別
・ マトリクス型
などいくつかある。

keinabi.com

 

更にどの程度組織を細かく分けるかは
・ 業績(売上・利益)
・ 人数(マネジメントスパン・物理的な店舗や事業所のサイズ)
・ 組織のミッション
(事業開拓や新規事業、事業再建などの特命的なミッションを有するのか、定常業務の運用か)
といった要素があるため簡単に決まらないが、戦略目標達成に必要な組織を決めれば、その組織に応じた組織の責任者(≒ポスト)が決まる。

ここで注意したい点がいくつかあり、

・部下なし管理職の組織
・一部一課
・専門職
といった注意点が挙げられる。

まずは、部下なし管理職の組織で部下がいないにも関わらず管理職をする場合は管理する部下がおらず、管理する部下がいないため文字通り管理職ではない。
こういった場合はポスト数から除外する。

一部一課については、部に一課がそのままぶら下がる場合には部長が課の責任者を兼任するのが妥当である(部長は管理職の管理者であるため課長でもあるべき)。そのため、この場合は課のポスト数は数えないほうがよい。

専門職については、高度な専門性を有するため管理監督者とする場合もある。

 

しかし、ここで注意すべきは国が定める管理監督者と私が説明で使用している管理職は使っているニュアンスが違い、国の定義には部下の有無は特に書いていない。
●労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること
●労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有していること
●現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものであること
●賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/dl/kanri.pdf

そのため、管理監督者としての専門職は特に管理職としてのポストとしては計算からは除外して考える。

上記の前提で組織の数をカウントすることで、各組織に必要なポスト数を算定することで組織に必要な管理職の数を算定していく。場合によっては急な離職等を考慮し、管理職の人数に幅をもたせるためポスト数に係数を(1.1~1.2)掛ける場合もある。


ボトムアップでの算定)
スパン・オブ・コントロールをベースに考える。
スパン・オブ・コントロールとはコントールできる範囲を指し、一人の管理職が管理できる部下の人数を指す。

例えば、有名なところであれば、ジェフ・ベゾスは最適なチームサイズはピザ2枚をシェアできる人数だという【2枚のピザ理論】を出しており、最適なチームの人数は4~8人が望ましいと答えている。それ以上であれば一人の責任度合い・貢献度が下がり、結果生産性も下がると考えられる。

 

他には、
モンゴル帝国の軍隊は、十進法単位で編成された万人隊(テュメン Tümen )・千人隊(ミンガン minqan/minγan )・百人隊(ジャウン ja'un/jaγun )・十人隊(ハルバン harban またはアルバン arban )に基づいて形成される[23]。千人隊(ミンガン)は遊牧民の社会単位でもあり、日常から各隊は長の帳幕(ゲル)を中心に部下のゲルが集まって円陣を組むクリエン(küre'en)という社会形態をつくって遊牧生活を送った。彼らは遊牧を共同してを行うとともに、ときに集団で巻狩を行い、団結と規律を高めた。

モンゴル帝国 - Wikipedia


と10人単位での組織編成を意識しており、多くても管理できる人数は10名程度ではないかと考えられる。

 

それを考えれば、
1,000名の企業であれば、100名の課長、10名の部長、1名の社長のように2階層の組織となり、

10,000名の会社であれば、1,000名の課長、100名の部長、10名の本部長、1名の社長といった形で組織は3階層となり、

管理職の数もある程度規定できる。

 

他にも、現場社員のエンゲージメントを最大化させるため、メンバー一人あたり週1回10~15分程度のチェックイン(いわゆる1on1面談)をするとエンゲージメントが最大化するという研究もあり、そのチェックインに投下できる時間で管理人数を決めるという方法もある。例えば部下1名あたり15分×10名=週2時間30分を部下との面談に投下できるのであれば10名は許容できるスパン・オブ・コントロールであり、逆に部下の個別フォローができないのであれば、部下の人数に関わらず管理ができていないということでもある。

https://www.amazon.co.jp/NINE-LIES-ABOUT-WORK-%E4%BB%95%E4%BA%8B%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B9%E3%81%A4%E3%81%AE%E5%98%98/dp/4763138162

 

最後の業務の積み上げのような考え方に立つと、1on1mtgといったことに限らず。管理職としての本来の役割を果たすため、無理がない人数が適切なスパン・オブ・コントロールということになり、求められる役割や個々人のスキルにも依存すると考えられる。
管理職に求められる業務の積み上げを行い、上記のような算定をしていくのが最も合理的なポスト数の算定と言えるかもしれない。

 

Googleでは「Project Oxygen」というもし管理職がいなくなったら組織は機能するか・優秀な管理職はどういった特徴があるのかという実験の結果、管理職は必要であると結論を出しており、管理職に求められる要素について紹介している。これらの要素をフレームワークにして管理職の職務を洗い出して見るものよいかもしれない。

rework.withgoogle.com


※実際は係長などの非管理職に部下のケアを行わせるということもあり、より管理人数を増やすということも可能と考えられるが、自身が直接指導・監督するという意味では多くて10名程度になると考えられる。

ジェフ・ベゾスがが4~8名と言ったのは、仕事がある程度クリエイティブな仕事であることを前提にしたほうがよいかもしれない。前段の業種別の管理人数も労働集約的な仕事(運用が定型化している仕事)は管理職の比率が低く、知識・技能集約的な仕事は個別判断が増え管理できる人数は減るため4~8名と言ったのではないかと考えられる。