採用人数に関する考察(何人ぐらい採用するのが良いか??)
採用はどの企業でも悩んでいる大きな問題である。
日本の大手企業は新卒一括採用がいまだに多くのウエイトを占めているため、卒業年度のマクロの景気動向によって採用数が左右されてしまう。
特に氷河期・ロスジェネ世代(バブル崩壊後の1993年以降の卒業で就職活動に差し掛かった年代)の会社における人数比率が少なく、ちょうどこの層が現場マネージャーを担う40代の中堅層であるため、若手とベテランの間のつなぎの中堅人材が不足しており、会社の方針をブレイクダウンすることや若手のケアを行えず、若手の離職につながっているケースもある。年齢別には歪な構成となっていることは会社の成長や風土に影響してくる要因と言える。
他には個別のビジネスモデルでも成長企業と成熟企業で年齢構成がいびつになる。
成長企業はビジネスモデルが強く、市場でのシェアの拡大余地があるため、勢いがあり成長スピードが早い若手を多く採用する反面、会社内でのメンバーを管理する管理職の育成や業務の標準化が追いつかない問題があり、能力以上の業務アサインにより残業の常態化や個別フォロー不足により疲弊した若手が辞めて、人材がボトルネックになり成長が緩やかに停滞する。
このような企業は若手の定着育成を促すための標準化や管理職の早期育成・昇格が必要な施策と言える。
成熟企業は市場が停滞・縮小しつつあり、採用も抑制をしているため、中高年層が多く、若手が少ないため企業としての活気がなく、新規のビジネスも生まれにくくなっている会社である。このような会社は中高年層に年齢構成が偏っているため(多くの場合は職能型の昇格管理のため)、人件費もかさみ、多くの管理職が少ない若手を管理する構造で、手を動かし、足で稼ぐ現場の負荷が高くなり、昇格も遅くなり、責任ある仕事が振られにくく若手が成長しづらいという構造的な問題を抱えることになる。
このような企業は職能型から役割型へ制度の思想を変え、昇格管理を徹底することや、陳腐化したビジネスモデルに適合しない人材の育成・異動・退職勧奨などが施策として考えられる。
最近はダイバーシティがもてはやされているが、ダイバーシティが高い組織はパフォーマンス・イノベーションに繋がる可能性が高く、このダイバーシティの観点として学歴と年齢、キャリアパスと他業界での経験で相関があるらしい。
そういう意味でも年齢の多様さ(≒バランス)は重要である。
今回は採用の人数(量)の観点を考える際にヒントになるだろうことについて紹介していきたい。
■目標数値からの算定
わかりやすい例で言えば目標に対する採用の人数算定がイメージしやすい。
必要人数=
目標生産量・作業量・売上・利益・付加価値/現在の一人あたり生産量・作業量・売上・利益・付加価値
※生産量か作業量か売上にするかとの指標は業務内容により個別に計算する
※一人あたり付加価値はいわゆる労働生産性のことである
というものである。
営業や工場のスタッフなどのわかりやすい労働集約型のビジネスであればこの計算式のイメージは湧きやすいのではないだろうか。
必要人数が常態的なものか、突発的なものか、簡便なものか、専門的なものかで正社員として採用育成るか、非正規雇用の採用にするか、業務委託による専門家に依頼するのかは異なるが方向性はこれがわかりやすい。
目標の水準を決めるに当たり、参考にあるのがビックデータとして活用できる外部のベンチマークである。
経済産業省の企業活動基本調査では、
業種・資本金規模別・人数別で社員数や売上・営業利益・付加価値などのデータがあるためこれをベンチマークに、業種・資本金別に一人あたり売上高(売上/社員数)や労働生産性(付加価値/社員数)を出すことで自社の目指す目標とすることができる。
もしくは自社の業績から好調であった時期の売上や付加価値をベンチマークにするものよいかもしれない。
■ELTVからの算定:中途採用
ある程度必要な人数が決まれば現在との差分で採用人数を計算することになる。
採用は基本には能力や会社理念との共感という前提のもと採用していくのだが、単純な数だけで言えば、短期の中途と中長期の新卒で分けて考えるのがよいと思う。
短期の中途では年齢構成の不足層や等級での不足層を補充するように採用することが望ましく、中長期の新卒では年齢構成を踏まえて採用するのがよい。
短期の中途の観点ではあくまで欠員の補充といった意味合いが強いため、別の記事でも記載した、
ELTV(一人あたり社員生涯価値)― EAC(社員一人あたりの採用コスト)
・ELTV(社員生涯価値)・・・
1社員あたりの年間利益(≒労働生産性)×平均勤続年数
・EAC(社員一人あたりの採用コスト)・・・
(年間の採用担当者の人件費+面接官の人件費+媒体利用料+エージェント手数料+ツール利用料)÷ 年間の新規社員獲得数
で算定ができ、ELTVが採用コストに対してある程度の幅を持って黒字であれば継続的に採用ができるという考えである。
新卒一括採用をしていないような会社でもある程度、会社の財務状態に照らして採用をし続けられるかの指標として活用ができる。
※勤続年数も厚生労働省の賃金構造基本統計調査で産業別に出ているので、
経済産業省の労働生産性のデータと、厚生労働省の勤続年数のデータで産業別にELTVを出すことが可能で外部ベンチマークとして設定できる。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2019/dl/14.pdf
■採用の面積問題:新卒採用
中長期的な新卒の採用人数では、毎年採用計画があり、一定数の新卒を採用することをベンチマークにしている会社も多いと思う。そのため、新卒を毎年何名採用するかという問題がある。
そこで活用するのが採用人数を面積として捉える方法である。
長方形の面積は縦の長さ×横の長さで算定できる。
これを
面積=全社員数
縦の長さ=勤続年数
横の長さ=新卒の採用数
で捉えることで、横の長さ=新卒の採用数を算定するのがやりたいことである。
この例では
面積=全社員数(380名)
縦の長さ=勤続年数(38年)
横の長さ=新卒の採用数(毎年10名)
となり、毎年10名の新卒を採用すれば、現在の人数・人員構成を維持できる計算になる。
※人数を増やす、減らす場合はこの人数をベンチマークに新規採用数を調整することが望ましい
上記の算定では退職率を加味していないため最もシンプルなモデルだが、
退職率を加味した場合は台形の計算式になる。
上の辺の長さ:定年退職人数
下の辺の長さ:新卒採用数
高さ:勤続年数
が必要なパラメータだが、定年退職人数の算定がここではネックになる。
定年退職人数は新卒採用数に(1-退職率)を勤続年数分の累乗した数値になるため、
定年退職人数=新規採用数(X) ×(1-退職率(a))^勤続年数(b))
で計算できる。
ここまでくれば台形の公式に当てはめるだけのため、
全社員数(Y)=
(新卒採用数(X)+ (新卒採用数(X) ×(1-退職率(a))^勤続年数(b) ) )×勤続年数(b) /2
新卒採用数(X)=
2全社員数(Y)/(2+勤続年数(b) (1-退職率(a) )^勤続年数(b) )
の計算式で退職率を加味した新卒の採用数が算定できる。
※高卒と大卒の新卒採用数を分けたい場合は、勤続年数と全社員数の数値を調整して2回計算して合算すれば良い
この面積で捉える計算は管理職の昇格人数にも応用が効く。
追加で必要なデータは標準的な管理職の昇格年齢と管理職の数である。
管理職の数については前回の内容で説明したとおりだが、ここでは便宜的にポスト数で算定する。
この計算により、管理職への年間昇格人数の計算が可能になる。